上手も、下手も、....

 そもそも、上手にもわろき所あり。下手にも、よき所必ずあるものなり。これを見る人も無し。主も知らず。上手は、名を頼み、達者に隠されて、わろき所を知らず。下手は、もとより工夫なければ、わろき所をも知らねば、よき所のたまたまあるをも辨へず。されば、上手も、下手も、互ひに人に尋ぬべし。さりながら、能と工夫を極めたらんは、これを知るべし。
-『風姿花伝世阿弥岩波文庫)風姿花傳第三 問答條々より一部引用 -

 いはんや、叶はぬ上慢をや。よくよく公案して思へ。上手は下手の手本、下手は上手の手本なりと工夫すべし。下手のよき所を取りて、上手の物數に入るる事、無上至極の理なり。人のわろき所を見るだにも、我が手本なり。いはんや、よき所をや。「稽古は强かれ、諍識はなかれ」とは、これなるべし。
-『風姿花伝世阿弥岩波文庫)風姿花傳第三 問答條々より一部引用 -