最適化


 ちょっとここで関連話題として、「デザイン」について書いておこう。デザインという言葉を、普通の人は「色や形の美しさを考える作業だ」と勘違いしている。デザイナというと、そういう装飾的なことに気を遣う人種だと思われている。これは、明らかな間違いだ。デザインを訳した言葉が「設計」である。設計とは、別の言葉で表現すれば、「最適化」のことであって、これを行う作業の大半は、数字を用いた計算だ。建築の場合には、「構造デザイン」といって、材料の性質や形を考慮して、自身や風に抵抗できる形態を算出する作業がある。外壁の色だとか、窓の形だとか、そういったものは、「意匠デザイン」と呼ばれている。室内の壁紙くらいは、まあぎりぎり意匠デザインの守備範囲だが、インテリアに至っては、もう建築の分野ではない。建築のデザインは、観葉植物や絵を飾ったり、カーテンとか絨毯とか家具とか、そういったことは主対象ではない。常々、この点が、世間の人との認識とズレがあると感じている。


 デザインは、ビジュアルなものに限らず、もっと広い範囲に使える言葉だ。人生設計を人生デザイン、家計簿を付ける作業を家計デザイン、などというのもフィットしている。だから、小説の場合も、最初にプロットをちゃんと考えるような人はデザイナだといえる。


-「工作少年の日々『僕の小説の書き方』」森博嗣 著より -